2013/01
被災地大槌のコミュニティ再編活動ライフビジョン学会


 





AMDA大槌健康サポートセンター全景。
2011年4月、余震の中で建設が始められた。













































サロンでの活動風景。活動が増えて手狭になったので、ここも拡張される。















































地域に密着した治療風景。

 2011年3月11日に東日本大地震が起きた翌4月、特定非営利活動法人AMDAでは早くも復興支援事業の一つとして「AMDA大槌・健康サポートセンター」が起案され、その年の12月18日には開所式が行われていた。
 あれから一年、鍼灸室を設備したセンターは今では鍼灸による健康サポートのみならず、ストレッチ・ヨガ・ウォーキング・骨盤矯正など運動療法や、手芸教室・郷土芸能や郷土料理教室・お茶会、野菜や花など土いじりする園芸療法などを通じて、地元の方々の笑顔が集まる場所になっている。
 ライフビジョンのチャリティー・オークション・パーティVol.17のカンパ金は、2011年の地震と津波で壊滅的被害を被った岩手県上閉伊郡に所在するAMDA大槌・健康サポートプログラムにお贈りした。
 センターを運営するAMDAプロジェクトオフィサーの大久保綾乃さん、鍼灸師の佐々木賀奈子さんに、現場の様子をレポートしていただいた。お二人は大槌に在住する被災当事者である。


ゼロから創る住民参加型コミュニティー

AMDA大槌健康サポートセンター
プロジェクトオフィサー
大久保彩乃


 AMDA大槌健康サポートセンターは、2011年12月18日に開所して一年が経ちました。私自身、現地雇用のスタッフとして勤務がスタートしてから、一年です。
 プロジェクト・オフィサーの仕事は復興支援事業の企画・運営・調整や、センターの管理などです。始めは小さな行事からスタートしましたが、今では、ヨガ教室、ボクササイズ教室、体操教室、手芸教室、フライパンでつくる天然酵母パン教室などなど、1週間のうちほぼ毎日、教室やイベントが行えるようになりました。
 センターのスタート期から開始した体操教室では、佐々木賀奈子鍼灸師による骨盤矯正やツボリンパの指導を行っています。
 月に2〜3回実施しているヨガ教室では主に、乳幼児がいるママさん方に参加していただいてます。お互いの子供の面倒を見合いながら、ママさん同士の交流やリラックスを目的としています。
 週に1回実施しているボクササイズ教室では、震災前に大槌町で開業していた先生に指導していただいています。大槌町内の体育館を活用して思いっきりパンチやキックを繰り出しすエクササイズは、「気持ちいい!」「ストレス発散できる!」と大好評です。
 手芸教室では、参加してくださる地元の方々に交代で講師を務めていただき、それぞれの得意分野を生かして季節の手芸品や動物のモチーフなどを作っています。
 フライパンで作る天然酵母パン教室では、東京から講師を招いて「講師養成コース」を行っています。これは被災地での人材育成も兼ねていて、養成コースを修了した参加者は、今度は自分が指導者となり、新たに、地元でパン教室などを開催できるようになることを目指しています。
 センターは仮設住宅からも在宅地域からも近い位置にあるので、いずれの方も気軽に参加できます。またセンターでの教室やイベントに参加することで新たな繫がりができるなど、出会いの場にもなっています。ここで笑ったり泣いたり、喜怒哀楽の感情を解放する場として、私達は地元の方のニーズに応えられるように、今後も新たな企画を行っていきます。
 うれしいことに最近は、私達が企画した事業に町民の方々が参加するだけでなく、こんな事がしたい、やったらいいのではと発案し、それぞれ得意分野で教え伝える側になっています。自分は先生なんてやれないとか、自信がないなんて話していた方々が次から次に、人に必要とされる喜びを感じたり、手仕事をしながら生活の近況報告したのする和やかな時間を過ごしています。各教室を終えて帰る時には次は?来週は?と、小さな目標ではありますが皆様のキラキラした笑顔が、私達スタッフに心の栄養を与えてくださいます。
 こうした活動を毎回積み重ねているうちにメンバーさんも増えて、目に見える効果も表れてきました。運動療法参加者は体重、脂肪率、BMI値がダウンしています。手芸教室の方々はお楽しみ市で作品を販売しています。
 四季折々の郷土料理教室は震災で突然母や祖父母を失い、お節句行事の料理や昔から大槌に伝わる伝統料理の作り方が解らないから教えて欲しい、と始まったものでした。作る過程や作り終えて試食しながら、亡くなった方の想い出話をしています。
 またその他にも、岡山経済同友会主催学生ボランティアの受け入れ、被災地間商店街交流、被災地間スポーツ交流など、外の方々と交流する様々なイベントも継続的に行っています。被災地にはなかなか他県の被災地情報が、メディアでも入ってきません。お互いに交流を持つことで復興状況などが把握できたり絆が生まれると思っています。
 震災から1年10か月が過ぎ、全国的なメディアにも取り上げられなくなってきました。でも皆さんが想像している以上に、大槌町の復興は進んでいません。被災地外からの観光客やボランティアなどの訪問支援も減ってきています。
 今後、私達にできることは、町民の声を外部に発信していくことだと思っています。日々進まぬ復興状況に対する不安の声や、一方では喜ばしい話題など、センターに集う方々の会話から聞き取って発信していきます。是非一度、大槌町に、AMDA大槌・健康サポートセンターにお越しいただき、被災地の状況について皆さんの五感で感じ取っていただきたいと思います。


さらに進んだ大槌の高齢化と地域医療

AMDA大槌健康サポートセンター内
鍼灸院 イエローハウス健美館
プロジェクトオフィサー
佐々木賀奈子

 緊急医療支援期からAMDAの鍼灸師として活動しています。
 もともと震災前から、大槌町では高齢化が進んでいました。大槌町の人口は13,101人、65歳以上人口比率32%です(2012年の全国平均は24.1%)。国連の定義によると65歳以上人口の割合が21%超で「超高齢社会」ですから、「超々高齢社会」といえるでしょうか。震災後は若い方々が、職場の事情や子供の学校や将来を考えて他の町に移転しており、ますます高齢化が進んでいます。
 大槌町の仮設住宅は山間地に多くあります。病院に通院するためにはタクシーで往復5000円程度かかります。そのため、症状がかなり悪化した段階で初めて病院にかかる高齢者も多くみられます。なかには生活費を節約するため食事を減らしている方もいらっしゃいます。ご家族でお住まいの方はまだ良いのですが、一人暮らしの方の食事や体調管理は深刻な問題です。実際、大槌町内の救急車の出動率が増えています。
 このような状況だからこそ、普段から病気を予防して、健康状態を良くしておかなければなりません。
 そこでセンターでは、鍼治療をしながら患者さんの栄養状態をチェックしています。バイオフォトスキャナーで栄養状態をチェックすることにより、栄養価の高い食事を摂る、生活習慣をより健康的なものに変更するなどのアドバイスを行って、みなさんのライフスタイルの改善に繋げています。
 血液検査の結果とスキャナーの結果が平行して良くなると、痛みが軽減され、体表変化として皮膚、髪の状態にも変化が出て、みなさん笑顔になってきます。身体の健康だけでなく、心の健康づくりが大きな力になっていると思います。
 今の治療室は一台しか診台がおけず、予約も二週間待ち状態で皆様には御迷惑をお掛けしています。また治療室隣のサロンでは各教室のメンバーも増えて手狭になったことから、2013年度中に増築拡張の予定です。
 東北、岩手では高齢者が多く、慢性症状や不定愁訴などに鍼灸マッサージ治療が必要とされています。高齢者はわが子や孫と一緒に暮らしたくても、仕事を無くした若者は大槌を離れざるを得ないのです。サポートセンターを拡張したら鍼灸師育成の場として、地域の働く場づくりに貢献できればと期待しています。


役立ち感が笑顔を運ぶ
 サロンでは皆さんが、それぞれの興味有るところに参加しています。例えば手芸教室のように、それぞれの得意なことで講師を務めていただけるようになり、「自分自身が必要とされている」「役にたっている」など認めてもらえることが生き甲斐になり、素敵な笑顔が生まれるのだと思います。もっともっと、人に必要とされる喜びや感動に出会える方々が増えて欲しいと思っています。
 一方でサロンに足を運べる方々はいいのですが、出てこられない方々には応診の際、声がけをしています。震災後、地域コミュニティーが崩れている中で不安、恐怖、不眠、うつ状態、引きこもりといった症状が出ています。私はしっかりと住民に向き合い、本人の気持ちを尊重しながら傾聴しています。温かく寄り添い時間をかけて見守る、いずれ自分自身も老いていくのですから、明日は我が身です。
 ただ側にいて話を聴いているだけなのですが、不安な顔が安心して微笑みに変わったり、時として一緒に涙を流したりしていると表情に変化があらわれ、笑顔が生まれてきます。私自身も津波にのまれ自宅も治療院も流されて、今は仮設に暮らしています。辛い、苦しい、悔しい、悲しい想いをいっぱいした分だけ、人に優しくなれたような気がします。
 先月、数日休診した際に私の携帯電話が何度か鳴りました。ギックリ腰だとか、捻挫したとか、どこにいるのか、いつ大槌に帰って来るのかという声が聞かれました。震災前の私はただ大槌にいて毎日治療し、畑で取れたハーブでお茶する日々でした。震災を経てそこに、大槌に居るだけで、居続けるだけでいいんだと改めて思っています。
 一人ひとりが抱えているものは違いますが、誰かに繋がっていく、繋がっているんだということを感じて欲しいです。その繋ぎ役がこの町に一人でも多く来てくれることを望んでいます。以前のように井戸端会議やお茶ッコしながらワイワイガヤガヤ、楽しい日常を取り戻して欲しいです。
 『おらほの町では楽笑幸齢者になろう!楽しく笑って幸せに歳を重ねる!』をテーマにしています。老いていくことに、生活することに不安が少しでもなくなりますように!


【AMDAってnANDA】
 特定非営利活動法人AMDAは、岡山県に拠点を置くNGO・国際医療ボランティア組織である。政策提言権のある国連登録NGOとして世界30ヶ国に支部を持つ。多国籍NGOで日本に本部があるのは珍しいという。
 代表的な活動は紛争や災害時に活動をする「AMDA多国籍医師団」で、そのスローガンは「救える命があればどこへでも」。いつも自然災害のニュースが流れると即、AMDAの救援チームが始動する、その迅速さと継続性には目を見張るものがある。
 AMDAの活動は医療にとどまらず、岡山県内企業や住民を巻き込んた市民参加型人道支援外交に広がる。以下にAMDAのホームページから抜粋して紹介したい。
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 日本は世界で最も嫌われていない国のひとつである。その理由を次のように考える。
 1)66年間、戦争の名のもとに人殺しをしていない。
 2)ODAで25兆円を利他的に世界にばらまいた。
 3)特定のイデオロギーを国益のために振り回していない。
 日本を「最も好かれている国」に、即ち親日を増やそうと、AMDAは2010年8月にハイチの災害復興支援スポーツ親善プログラムを実施した。長年対立していたドミニカ共和国とハイチ、そして日本の中学生のサッカー親善プログラムをドミニカ共和国の首都サントドミンゴで、ハイチ大使館と日本大使館の協力のもとに行った。
 スリランカ国内融和のための中学生サッカー親善プログラム(2011)ではその背景に、緊張関係にある南部政府地区、北部タミルイーラム解放の虎(LTTE)地区、そして東部イスラムタミル地区に公平に巡回診療をおこなった(2003)ことがある。
 医療者が対立する民族両者をつなぐ活動は傷ついた人へのケアを超えて、傷つく人を作らない、医療平和活動の真骨頂と言えるだろう。
 これらの活動への自信は、40年の長期間にわたり内戦を続けていたタリバンと北部同盟を、医療和平のために岡山に招いた経験(1998)にある。タリバンからはアッバス公共福祉大臣が、北部同盟からはアブドゥラ副外務大臣が来日した。彼は後のカルザイ政権で初代の外務大臣になった。内容は「すべてのアフガニスタンの子どもに予防接種を終了するまで戦闘行為を中止する」というものであった。
 平和を守るのに武器はいらないと強く感じさせられる活動に、惜しみない賞賛を贈りたい。
(文責編集部)







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