RO通信 No.771 2009/4/6  ライフビジョン 奥井禮喜 Disposition(人柄を形成する態度原理)  ひさしぶりにある組合の二泊三日セミナーを見学した。当方の出番はその1コマなのだが、ご厚意に甘えてすべてお付き合いさせてもらった。  セミナーの狙いは、時代状況を認識し、大衆組織としての方向性を再構築し、さらに、リーダーとしての態度を再度見直し、思索する感性を磨くことに置かれていた。  自分は、もともとは技術屋の仕事に就いたのだが、生来粗忽、若気の無鉄砲で、いつの間にか絶対嫌いな!研修屋の端くれになったので、ここらで研修屋としての修行をし直そうという気持ちで見学させていただいた。  プログラムは実に盛りだくさんである。今をときめくエコノミストの講演、アナリストの講演、ビデオによるユニーク経営のケーススタディ、組織会長の基本的視点講演、コミュニケーションのワークショップ、感性を磨くための講演・対話、それに当方の組織活動の方向性に関する講演である。  横串としては、「人間力」「人・地域のネットワーク」「人間的経営」「本音で語る」という狙いが押さえてあった。  事前学習書籍2冊、当日講演で配布された資料は200頁を超過する膨大なものであるから、研修成果は、やがてじわじわ出てくると期待される。詰め込み過ぎだという批判も出されたが、セミナー価値を減殺するものではない。  講演後はグループ・ミーティングで内容を確認する工夫がなされていた。  講師はそれぞれ一角の皆様で、大変興味深く拝聴した。エコノミスト講演は、現在の単純な不況克服論でなく、資本主義の形成を軸とした分析に重点が置かれ、偶々当方の講演の問題意識と重なっており、異なるアプローチであったが、結論は「成長至上主義やインフレ期待ではいけない」というにあり、おおいに共感した。後日勉強会をやろうという嬉しいおまけもついた。  会長講演は、セミナー全体をコーディネートした立場で、かつ、それぞれの講師が提供する材料を主体的にどう受け止めるかを、練り上げたもので、いわば、参加者各人に、組織指導方針として提起した内容であった。  参加者に、その意図が十分伝達されたかどうかは、現段階では明確でないが、個人として長年学習し練り上げた内容だという事実が、部外者の当方にも十分過ぎるほど伝わったから、やがて共有化できるであろう。  1980年代、「21世紀に消えるのは組合と農協だ」という揶揄がしばしば聞かれた。組合は組織率が低迷しているとはいえ、20%程度を維持している。ただし、組織人員が1000万人いることと、主体的・社会的存在感があるかどうかは別問題である。  最大の問題は、いずこの組織にも共通することだが、無常の世界において、状況に働きかける主体性が磨かれているか、具体的に行動を組織しているかが問われるのである。現在、組合がぼろ糞言われるのは、具体的活動が効果的でない、つまり具体的課題について組織力が発揮されていないのである。  かつて組合は「食えるための賃金」を求めて組織力を発揮した。しかし、食える・食えないなどで力を発揮しなければならないのは、いかに活動活発であっても、所詮低次元である。  いわば、かのポール・ラファルグが「怠ける権利」という特異に見える主張で世論を喚起したごとく、社会の圧倒的多数が「高等遊民」を目指して愉快に暮し、学び、遊び、仕事を通して社会に貢献しているとの気風が高まらなければ、経済大国といってもさしたる意義はないのである。  まさに、人間行動Bは、主体Pと状況Sの関数、B=f(P,S)である。セミナーの講師が提供するのは、Sを明確化し、Pが創造的・挑戦的に行動する、主体性強化のためのお手伝いに過ぎない。  会長は「自分が組織の在り方について不満をぶつけたら、K先輩が、まず君が変わることだと言われた」と活動に対する思いを吐露された。まさに自分のdispositionを本音で語ったのである。  いわば、これがセミナー効果に対する主催者の思いの核心である。もちろん、リーダーたるもの、高思低処を実践せねばならない。高思とは各人の決心に委ねられる。本音で語ることができるのは、自分の思いに確信があるからである。私が半生かけて追求してきた思いと重なって嬉しかった。