-組合の思想と存在感II 新・大衆運動論立ち読み

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A6版/208頁
    <目次>

第T章 大衆
    一 大衆の結集―変化に対する抵抗と変化を求める欲求
      「組合員の組合離れ」か「組合の組合員離れ」か 
      組合活動再生には大衆運動の視点が必要 
      大衆運動に対する忠誠は何から発生するか 
      未来を恐れぬ態度 
      運動と組織の違い 
      集団の性格と運命を規定するもの 
    二 大衆運動の活力 1 ―共同行動と統一は何を意味するか
      効果的な運動への参加 
      大衆運動にはいろんな顔がある 
      個人と全体との同一視 
      現在に対する非難 
      教義と狂信 
      統一の動因としての憎悪 
      大衆運動不在の状況 
    三 大衆運動の活力 2 ―共同行動と統一は何を意味するか
      模倣=画一性の意味 
      説得と強制 
      指導部の働き 
      目的の変質 
      大衆運動の意義
    四 個人の自由の不可侵性―社会の権威の限界について
      かつて日本は人間関係重視だった 
      個人主義幻想の蔓延 
      個人主義の系譜 
      人間は本当に自由なのであろうか 
      社会秩序、市民的自由とはいかなるものか 
      連帯とは民主である。現実は 
    五 煽動の技術―アジテーターとオルガナイザーの違い
      偏見の本質的病理 
      石原莞爾的煽動 
      聴衆への働きかけ 
      社会的不快 
      煽動される感情の本質 

第U章 組織
    一 組織開発の基本 1 ―開発されなければ組織は衰退する
      組織開発の基本 
      人間の本質の研究 
      マズローの欲求五段階説 
      組織開発の基礎は個人の意識に火をつけることだ 
      最近の体験から……  
    二 組織開発の基本 2 ―開発されなければ組織は衰退する
      経営管理論の歴史に学ぶ 
      ホーソン工場の実験 
      マクレガーのX理論・Y理論 
      ハーズバーグの動機づけ・衛生理論 
      リーダーシップ理論の展開 
      トップマネジメントのリーダーシップ論
      組織文化ということ 

第V章 デモクラシー
    一 デモクラシーの本質
      今時デモクラシー(democracy)を論ずる理由 
      規制緩和・成果主義・自由放任の誤謬 
      強大なリーダーシップ期待の危険性 
      社会・国家が存在するためには秩序が必要だ
      デモクラシーにおける国民の自由 
      多数決原理の意義 
      デモクラシーもまた国家権力を肥大化させる 
      政治に関与するということ 
    二 大正デモクラシー
      大正デモクラシーの背景
      米騒動 
      デモクラシーの思潮 
      民衆自身による教育 
      普通選挙運動 
      さまざまな解放の動き 
      朝鮮の独立宣言 
      原敬内閣に対する失望 
      関東大震災と反動的な動き 
      護憲内閣の悪戦苦闘 
      オートクラシーとデモクラシーの対決 
    三 大東亜戦争から何を読み取るか
      一五年戦争の系譜 
      大正デモクラシーの終焉 
      五大国たる大日本帝国の脆さ 
      扇動者群像 
      操作された情報と大衆 
      無産政党と労働組合の態度 
      反骨を貫いた人もいた 
      軍部専横を追認した勅語 
    四 国家を再考する
      国を意識するのはどんな時か 
      無政府主義 
      革命三尊・章炳麟 
      家族・私有財産・国家の起源 
      専制制度と民主主義 
      社会契約論 
      憲法から見た国家 
      日本的憲法事情 
      ソクラテスの弁明

 はじめに

 本誌は、月例開催している「組合研究会」に提供してきた論題から抜粋したものである。 問題意識の縦糸は「社会の元気」=「大衆の元気」=「個人の元気」であり、大衆運動を 担う組合活動への提言である。

 わが国は大衆社会mass societyである。にもかかわらず大衆運動としての組合活動に精 彩を欠く。背景を大雑把に整理すれば、個人における社会的自閉症とでもいうべき孤立し たマイホーム主義の蔓延。企業テーゼtheseに対する組合テーゼtheseの曖昧さ。……二〇 年前、新人類なる若者たちが登場した際、世間は彼らを「無関心・無感動・無気力」=三 無主義とこき下ろしたが、今の組合運動を概観して、それとの共通点が著しいといえば言 い過ぎであろうか。
 経営側がバブル経営の責任を無視して、成果主義や「雇われる能力論」を持ち出してな りふり構わず雇用問題に着手した際の、組合運動全体における無気力・無抵抗はわが国組 合運動一世紀における歴史的一大事であった。組合員個人はじっと蛸壺に閉じこもって、 嵐が過ぎ去るのを待っている。それがいわゆる小泉ブームの土壌となったことはまず間違 いあるまい。
 大衆運動には、変革に対するなんらかの期待・希望が不可欠である。期待・希望が膨張 するような土壌は欲求不満である。一九九〇年代半ばから自閉症的孤立感で蛸壺に入って いた大衆が、組織化抜きに、たった一人の政治家の発言に煽られ、ときに熱狂的となった。 先進国において、このような現象が発生すること自体、不気味ですらある。

 本誌は『大衆の結集』『大衆運動の活力』では「大衆運動とはなんたるか」「共同行動= 連帯はいかにして発生するか」などについて指摘した。なにゆえ組合活動が停滞し続けて いるのかを考える資料としていただきたい。
 『個人の自由の不可侵性』では「社会と個人主義の切り離せない関係」について指摘し てある。そして『煽動の技術』において「煽動者agitatorと組織者organizerの違い」に ついて述べている。
 『組織開発の基本』では「なぜ春闘が大ヒットしたのか」、そして「なぜ今の組合活動が 活性化しないのか」について示唆を与えられると確信している。
 『デモクラシーの本質』『大正デモクラシー』『大東亜戦争から何を読み取るか』『国家を 再考する』の部分は、大衆運動が民主主義社会において果たさねばならない役割について、 考えていただけると思う。
 とくに、戦後、棚ボタ的に手にした民主主義によって、今日のさまざまな不埒な事態が 発生しているという見解が少なくないけれど、そうではない。大正時代をすっ飛ばして明 治の英雄たちを賛美する脳天気にこそ、大東亜戦争を含めて一五年戦争を阻止できなかっ たわが国民の体質が顕著だということをわかっていただけるのではないだろうか。

 大衆社会において、大衆運動が低迷しているにもかかわらず、民主主義が高揚している とは考えられない。親愛なる組合リーダーの皆様に、一人でも多く、このささやかな冊子 を読んでいただき、組合活動を元気にしていただきたいと願っている。

二〇〇一年八月一日  奥井禮喜  



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