-ライフプロデュース いきいき人生への出発立ち読み

著者・奥井礼喜
時事通信社
本体1,000円
B6版/224頁
<目次>
はじめに
第一章 ライフプロデュースの時代
第二章 ライフビジョンとは
第三章 ライフビジョンの方法(ワークシートと解説)
第四章 企業のライフビジョン(プログラム導入事例)
終 章 自立人間への限りない接近を

はじめに
筆者が初めて企業内中高年問題にかかわってから二十年近くになる。とりわけ人 生設計システムを開発して十五年が経過した。
かつて筆者は三菱電機株式会社に在職中、技術革新の中で中年期を迎える技能者 が経験と共に磨いてきた技能の価値に陰りがさし、自信を喪失していく姿に気がつ いた。それが中高年問題との出会いであった。無常で不条理の世界を元気よく生き 抜くためにはアイデンティティをいかに確保するかがもっとも重要であることに気 付かされ、これが人生設計システムの開発に結びついたのであった。
人生設計では自己認知をして自己の今後の目標を構築するのだが、自己認知とい う概念を実践するのはまことに困難である。当然、自己認知を曖昧にしたままで人 生設計を掲げても十分な効果はあげられない。かくして筆者は、人生設計とは自己 認知に始まって自己認知に終わるのではないかとすら考えるようになった。だから 筆者の提唱する人生設計プログラムでは自己認知に様々な工夫をこらしている。
筆者は「面白くなければ人生設計ではない」とも考えている。そもそも自分の見 解を表明するのは楽しいはずである。しかし、もし一人の大人にハウツーを教えた り、何かを強要したりするようなプログラムなら興味の大部分が消えていく。或い は多くの人生設計セミナーでは未来について不安を強調するのが好きである。「未 来は不安だ。大変だからしっかり勉強しよう」。これでは狼少年みたいで好ましく ない。そればかりか「国の年金には期待できないから個人の年金でシッカリ蓄えて」 などと主張されると、国が混乱しているのに個人の人生設計も何もあるものかと、 憤りさえ感じる。個人の人生設計は組織や国の確固たる設計に通じなくてはならな い。
筆者はお金や物で獲得できる人生はたいしたものではないと思う。もしお金と物 で獲得できる人生が最高なのであれば、今日の日本は世界からもっと羨望の眼差し で見られ、世界の人々からおおいに尊敬されるはずである。いや外国の人がどう考 えようと私たち日本人がもっと気持ちよく毎日を暮らせるはずである。現実に人々 は「豊かさ・ゆとりが感じられない」と元気のない様子なのである。筆者の人生設 計システムにおいては、自分の元気の開発に最大の焦点を当てている。
「人間はなろうとするものになる」といわれるが、戦後の日本人はまさに「モノ とカネ」価値観の世界をひた走ってきた。昨今「豊かさ・ゆとりが感じられない」 というのは従来の「モノとカネ」価値観の限界を示唆しているのではないか。「私」 は、日本人は、これからどこへいこうとするのだろうか。「経済だけしかない日本 (人)」という諸外国の批判を「私は町人でございます」と居直って受け止めるの か。戦後の三等国家(国民)意識を払拭してノーブレス・オブリージェ(高い身分 に伴う義務)の旗を掲げるのか。いずれも一億二千万人の「私」の選択による。
かくして筆者は、今後の人生設計システムはたんなる矮小化された個人の人生設 計のイメージではなく、個人の人生設計が新しい日本を作るのだという基本的な司 会を持つべきだと考えるに至り、筆者の提唱する人生設計システムを「ライフビジ ョン(人生の構想)」と呼ぶことにした。
編集部からいただいたテーマは「ライフプロデュースの時代」であった。この語 感もまた素晴らしい。世界は劇場、そこに生きる「私」は脚本家、演出家、そして 俳優なのである。時代は自分の人生をプロジュースして生きるにふさわしい。人生 をプロデュースする一つの戦略的発想方法として「ライフビジョン」が少しでもお 役に立つことを期待している。
一九九一年五月二十一日 車中にて 奥井禮喜