月刊ライフビジョン | ビジネスフロント

国民は野党に餓(かつ)えている

司 高志

 筆者には投票したい党がない。困ったことだ。今回は有権者の心理について考えてみる。

 各政党を仮に『疫病神』とする。疫病神は時として、変な制度を新設して今までにない費用を発生させたり、税金というお供え物を多く要求するようになる。投票するということは、疫病神を選ぶようなもので、有権者はだから、自分にとって一番被害の少ない疫病神を、今の生活に悪影響を及ぼさないような疫病神様を選ぶ。今の所、なんやかんやで、ちょっとでも生活が豊かになりそうで、あまりお供え物を一挙に値上げたりしない、被害の一番少ない疫病神様は、G民党であると思われている。

 野党の疫病神様は、将来の日本がどうなるかまったく見通せていないので、うかつに投票できない。いやいやながらでも野党に投票するのは、G民党という疫病神様が暴走しないように、見張りや抑止、ブレキー役を期待してのことである。こういう心理状態で疫病神様を選んでいると考えれば、今の政党支持率の模様はある程度納得できるものだ。

 だがそれでも有権者は、進んで投票できる新たな神様を求めている。できれば普通の神様が良い。そこに前回の参院選では、新選組とN国が現れた。新選組とN国に勢いがあるのは、有権者の渇望を反映させたものである。

 今までの野党は、政党名のロンダリングを行って新味を出そうとした。しかし実態が変わらないので、政党名を変えても効果はあまりなかった。また、都知事の党ができて、議員は我先にと政党を乗り換えしようとした。この様は、泥舟から我先に安全な船に乗り換えようとする、沈没船のネズミを連想させた。

 しかしながら新選組は、政党トップが自らの比例候補順位を下げて障害者を当選させた。先の泥舟脱出とは逆に、この戦い方に大きな共感が集まったのが勝因の一つであろう。都知事の党も、考え方を同じくする少数の有志からスタートしていれば、新味を求めている有権者の心に響いたに違いないのに、最初から政党を大きくして、加えて資金も獲得しようとした作戦が失敗した。

 ちなみに新選組というのは幕府に味方して散っていくわけで、幕府を保守勢力(G民党)とみるなら幕府から新しい体制を臨んだ坂本竜馬系か、吉田松陰系で組織の命名をした方が、政党名の雰囲気としては合っているのではないかと思う。「維新」はもう使われてしまったが…。名前が新撰組なので「いつまでもダラダラやろう」という気はなく、きれいに散ってしまうのかもしれない。

 さて、N国の方は、G民党では絶対にやってくれない放送受信料の適正化をやってくれそうで、そこに対する大きな期待で選ばれた。これに危機感を覚えた旧野党系が会派を組んだ。確かに国会論戦での質問時間等は有利になるが、新味を求める有権者には響くものがない。

 話は変わるが最近の事件として、台風が接近するさなかの某日、某野党議員が国会質問の内容通告をわざと遅らせる戦術をとった。まず時間内に項目を通告し、詳しい質問内容を五月雨式に伝達し、公務員の待機時間を引き延ばす。質問の全貌が明らかになるのは日付が変わる頃で、国会待機をさせられていた公務員から不満の声が上がった。

 野党にとっては、国会で法案を廃案にするためには時間切れを狙うしかないという事情は理解するが、公務員に答弁を作る時間を与えず、相手の間違いを誘う戦略や、公務員を疲弊させる戦術は、手法としていただけない。新聞やテレビには出ないものの、この事件はネットで議論されており、ネットを視聴する機会の多い若者の野党離れは必然である。

 最悪なのは、質問の出し方が不適切であったとか、配慮が足りなかったと謝罪すればまだしも、質問事項を漏洩させたとあらぬ方向に議論を進展させたことである。窮地に陥ると一般有権者は眼中になく、仲間受けする論理展開をしていたのでは、有権者の共感は得られない。またぞろ、難破船から窮鼠が逃げる。