月刊ライフビジョン | 社労士の目から

毎年の賃上げ交渉の見直しを

石山浩一

 組合の賃上げ要求に対する大手企業の回答が始まっています。連合の第2回集計(3月22日)では平均賃金方式による賃金引上げ額は、6,475円(2.13%)で昨年同時期比で▲33円(▲0.04%)となっています。非正規社員の時給のアップは見込まれますが、全体としては昨年を上回る率は期待できそうにありません。

 連合の具体的な賃上げ要求の考え方は、「2%程度を基準(定昇相当含め4%程度)」となっています。しかし第2回集計で2.13%と、定昇相当を引いた純ベアは0.13%程度となっています。連合は賃金水準に重きをおいた取り組みをして、中小労組や非正規労働者の格差是正を行うこととしています。

 さらに今年の特徴的な現象として、トヨタ自動車の労使がベアの要求を公表しないとしたことがあげられます。こうしたことは従来の賃上げ要求方式が時代に合わなくなっていることを表しているといえます。

純ベアと定昇込み賃上げの乖離

 マスコミ等は賃上げについての数字は、ほとんどが定昇込みで報道しています。今年も賃上げ交渉結果は2%強と報じられると思いますが、純ベアは定昇を差引いた率となります。労務行政研究所の2014年の賃上げ時の定昇率は1.8%としています。定昇制度がある場合、労働協約で定められた定昇率は交渉せずに実施されることになるので、実際の純ベアは定昇込み賃上げ率から1.8%を差引いた率となります。

 今年の第2回集計と同時期の近年6年間の推移は下記の通り

調査年月日

2014.3.25

2015.3.26

2016.3.25

2017.3.24

2018.323

2019.3.22

賃上げ率 %

2.23

2.36

2.10

2.05

2.17

2.13

推定純ベア%

0.43

0.56

0.30

0.25

0.37

0.33

 国税庁による2015年分の「民間給与実態統計調査」によると、日本人サラリーマンの平均給与は「29万7千円」となっています。この給与から推定すると今年の賃上げ額は、定昇制度のない組合の賃上げ額は約6,400円、一方、定昇制度のある組合の純ベア額は約1,000円となります。

 賃上げ交渉は前年の秋から準備をして、ナショナルセンターが要求基準を決め、ナショナルセンター加盟の産別で討議を行い、産別参加の単組が一般組合員に諮って要求額(率)を決めます。こうした過程を経て交渉を行った結果、定昇制度のある組合の賃上げ額が1,000円前後です。これだけの時間と労力を費やして毎年の賃上げ交渉は必要なのでしょうか。

“賃上げは隔年要求に

 1999年から3年間はバブル崩壊後の不況ため、純ベアのアップ率が0.16%台という結果でした。そのため雇用確保を優先して、2002年、2003年は賃上げ要求をせず、定昇の実施と雇用確保を会社に求めたことがあります。純ベアが0.16%による純ベア額は現在の給与で約500円です。

 そのための労力を雇用確保と定昇の完全実施に注いだのです。その後は穏やかな景気回復もあって従来とおり、産別の要求に基づいて賃上げ要求を行っています。

 しかし、近年の賃上げ率は前述のように低迷しています。企業側は賃金が固定給であり将来の負担になるとの考えから、業績は賞与に反映する傾向にあります。こうした状況から費用対効果を考えて、多大な労力を費やしての毎年の賃上げから、隔年要求とすべきと思います。

 鉄鋼労連は1998年春闘から隔年要求を行っています。最近は基幹労連加盟のJFEスチールなど鉄鋼大手4社が隔年要求を採用しているため、労使は2年分の賃上げ交渉を行っていると報じられています。一時金が業績連動となっていない神戸鉄鋼は年間要求の交渉を行っています。

 賃上げなど労働条件の改善は労働組合の大事な活動ですが、同時に働く職場環境の改善も需要です。賃上げ等労働条件の改善を隔年交渉とし、労働時間の管理や年次有給休暇の取得向上などの働き方の改善やパワハラ・セクハラなどの職場苦情処理等に力を注ぐ活動へ転換すべきと思います。


石山浩一
特定社会保険労務士。ライフビジョン学会代表。20年間に及ぶ労働組合専従の経験を生かし、経営者と従業員の橋渡しを目指す。   http://wwwc.dcns.ne.jp/~stone3/