論 考

文民統制以前の問題

筆者 奥井禮喜(おくい・れいき)

 敗戦後の人々の暮らしは悲惨を極めた。なにしろ食べるものに事欠くのだからたまらない。ありったけの衣類など持参して農家を訪ね作物と交換してもらう。しかし、千客万来の農家にすれば、もうほしい衣類などない。

 空き腹を抱えて生活している人が多いから、世間が荒むのは必然だ。

 1946年1月、生活擁護同盟を名乗る人々が、東京板橋区の元陸軍造幣敞倉庫に膨大な食料物資が隠匿されているのを発見した。大豆1000俵、コメ30俵、木炭1000俵などで、当時のおカネにして30万円相当であった。

 さあ、みんなに配ろうという段階で、警察が聞きつけ、涙をのんだという、なんとも切ない歴史の一コマである。

 前述の話に限らず、軍隊にはシャバとはちがって物資が豊富であった。巷から見れば「役得」というやつだ。

 こんな話を思い出したのは、本日開催される国会の閉会中審査で、防衛省の不祥事が議論されるからである。潜っていないのに、潜水手当をちょうだいするとか、川重の裏金接待とか、まったく旧軍隊のやったことと通底するからだ。

 これらは、不心得者の個人がつまみ食いしたのとは違う。あきらかに、集団による組織的算段であって、果たしてただいまバレた事件だけかどうか。どうしても疑ってしまう。

 新聞には、文民統制がどうなっているのかと大上段だが、そんな大きな話の前に、自衛隊内部の秩序・規律・統制が乱れているといわざるを得ない。

 まったく貧相な、さもしい違反事件が組織的におこなわれているとすれば、軍隊(自衛隊もまちがいなく軍隊である)の基本ができていないことになる。

 かたや政治家は、世界を語り天下国家を語り、一朝ことあれば直ちに馳せ参ずるかのごとき大言壮語をしているのだが、こんなみみっちい事態が発生しているのだから、文民さまはいったいなにを統制なさるのか。あほらしい。

 というわけで、閉会中審議においては、かかる不祥事が誰によって始められたのか、しっかり実態を引き出さねばならぬ。

 もっとも、裏金事件うやむやの与党が堂々と軍隊に文句をいえるのかどうか。改めて再び、自民党の性根が問われることにもなる。