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アフガン陥落にサイゴンの既視感が

音無祐作

 以前、子どもの学校の文化祭を見学した時のこと、美術作品の中に太平洋戦争時の軍艦を使ったジオラマが飾られていました。私自身も少年時代に自動車や軍艦のプラモデルが大好きで、画用紙やフィルムラップなどを使ってジオラマのまねごとをしたもので、懐かしさを覚えました。

 ジオラマが美しいものやホッとできるようなものなら良いのですが、先日のアフガニスタン首都カブールでのテレビ映像を見て、46年前のサイゴン陥落と重ね合わせた方も多かったのではないでしょうか。我が家ではつい先日のNHK再放送でサイゴン陥落の映像を見たばかりで、なにかと錯覚しているかような困惑と衝撃を覚えました。

 国際連盟は第一次世界大戦ののち過ちを繰り返さぬようにと、まずはワシントン海軍軍縮条約で戦艦及び航空母艦などの主力艦を、次いでロンドン海軍軍縮条約で重巡洋艦以下の駆逐艦、潜水艦などの補助艦船の保有を国ごとに制限しようとしました。

 日本政府と海軍省も、この条約に従うとして一度は調印にこぎつけたのですが、海軍軍令部から「軍隊の事は天皇がもつ統帥権を補翼する軍令部に権限があるのであって、軍令部の承諾なしに決めるのは統帥権干犯である」として猛反発されたとのこと。結局、数年後にはそれらの条約を破棄し大和や武蔵を主とした海軍力を整え、太平洋戦争へと突き進んでいきました。

 昨今、太平洋の周辺国から防衛や抑止の名のもとに海洋兵力増強の音が聞こえてきます。空母を次々と建造する国があれば新たに原子力潜水艦を持とうとする国があり、潜水艦から発射できるミサイルを開発する国がある中で、戦争に散々懲りたはずの私たちの国までが、大戦以来となる空母を保有しようという発想は、先の貴重な教訓を反古にするものです。相手が武器を振りかざすから自分も武器をというのではなく、相手と向き合って論じ合う本気・根気にこそ”大和魂“を見せて欲しい。

 太平洋の架橋たるにはいかにあるべきか。それはできれば現在の五千円札の新渡戸稲造が見守る内に。それとも次の一万円札の登場を持ち、「争いは商いですればよろしい」と諭してもらえるのを待ちますか。