論 考

たまたま『ボレロ』

 土曜日のオペラシティでの東京交響楽団公演(指揮・飯森範親)は、定員1600人のコンサートホールで30~40%くらいの入りであった。先回まではだいたい90%程度だから半分程度である。

 天井は高いし、空調・換気もきちんとしている。主催者・出演者もだいぶ緊張の面持ちであったが、わたしは普段とおなじ心持で十分に楽しめた。

 演目は2年前には決まっているはず。モーリス・ラヴェル(1875~1937)作曲の『ボレロ』がおしまいの演目だった。非常に会場の雰囲気が高揚した。

 この曲は、18世紀末スペインで流行したギターとタンバリンの伴奏で、踊り子がカスタネットを鳴らしながら踊るセギディーリャ(seguidilla)という民族舞踊から派生したものらしい。

 最初はささやくように小さく、次第に存在感を増していく。次々にバトンタッチするように演奏が盛り上がる。

 初演は1928年1月28日、パリのオペラ座であった。第一次世界大戦が終わって10年、大戦の最中にスペイン風邪(震源地は米国陸軍基地)が大流行し、世界で感染が5億人(世界人口20億人)、亡くなった人が1億人近いとされている。わが国でも人口5500万人に対して39万人が亡くなった。

 コロナに負けたくないと精神論をぶっても意味はないけれども、珍しく指揮者がお礼の言葉を述べて、会場の雰囲気がさらに高まった。気のせいか、いつもの公演後よりも会場を後にする皆さんの背中が暖かく見えた。